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スベルドラップで世界を覗く
DATE 2026/04/22
CATEGORY 雑感
AUTHOR Akihiro Yashima
FRAME #002

スベルドラップで世界を覗く

黒潮にここ5年くらい、ずっと興味がある。

黒潮は南の海で生まれ、東南アジアから東アジアの沿岸を力強く流れ、いまの時代に「日本列島」と名の付けられた島々を沿い、やがて親潮とぶつかって黒潮続流として太平洋へ流れて出していく海流だ。プランクトンなどが少なく、透明度が高いことから暗く見えるので、黒潮、と名がついたといわれている。

私が黒潮を最初になんとなく意識したのは、沖縄に向かって船に乗った時であった。今は無くなってしまったが、その時はフェリーの関西~沖縄の旅客航路があった。黒潮は基本的には南からの一方通行なので、大阪から沖縄に向かう船は、黒潮を逆行することになる。ただ、実は船に乗ったときはそれを知らなかった。

黒潮の流量は、一説に約40スベルドラップといわれる。スベルドラップ?

1スベルドラップとは、1秒間に1,000,000㎥の体積の水が流れることを示す単位だそうで、そして、これはだいたい世界中の河川すべての合計流量であるらしい。ナイル川も神田川もアマゾン川もユーフラテス川もすべて合わせて「1」。それが40というのは、少なくとも私の想像できる大きさを、遥かに超えている。

そんな巨大な流れを考えるとき、その想像のできなさと一緒に、黒潮そのものに対する興味が一段と増してくる。同時に、想像できる限界を超えたものに、自ずと畏怖の気持ちが湧いてくる。

黒潮は今この瞬間も止まらず流れている。どんな音がしているのだろう。船のデッキから覗き込む藍暗い海の表面は、航跡で泡立っているけれど、通り過ぎてしまえばまた波に消える。黒潮とそれ以外の海との境目はどうなっているのだろう。そこに摩擦はあるのだろうか。汐の満ち引きは、この海流にどのくらい影響を与えるのだろう。流れの断面の形は円形なのか四角なのか。全体像が想像できず、問いは尽きない。

私の専門はドキュメンタリー映画である。

黒潮によって多くの人や物が往来し、人間社会はさまざまに多様化していった。あるいは人間だけでなく、植物や昆虫、あるいは当然に魚もその影響下にある。ドキュメンタリー映画でも、こうした側面から黒潮文化論を撮ろうとすることはできる。

でも、ひとまず黒潮による文化や影響ではなく、黒潮という、それそのものを考えたい。大きいものを大きいままに、一旦考えること。

ドキュメンタリー映画を構想している段階は、黒潮そのものを考えるときと、少し似ているのではないかと時々思う。